「俺がいなければ、この人の肩が濡れることはなかったのに」
高校への進学を機に、おじさんの家に居候することになった直達。
だが最寄の駅に迎えにきたのは見知らぬ大人の女性の榊さん。
案内された家の住人は26歳OLの榊さんと
なぜかマンガ家になっていたおじさんの他にも
女装の占い師、メガネの大学教授と
いずれも曲者揃いの様子。
ここに高校1年生の直達を加えた男女5人での
一つ屋根の下、奇妙な共同生活が始まったのだが、
直達と榊さんとの間には思いもよらぬ因縁が……。
久しぶりに始動した田島列島が自然体で描くのは
家族のもとを離れて始まる、家族の物語。
このマンガがすごい!2015オトコ編3位など、多数の賞を受賞した名作。
映画化決定ということで、感想について語りたいなと思います。ネタバレありですので注意してください。
とにかく、うまく言えないけどとても美しいというのが僕の抱く率直な感想です。
最高でした。
近年流行りの手書き文字風フォントでタイトル書いて表紙にするやつ基本そんな好きじゃなくて、なんならしゃらくさいと思うタチなんですけど、それすら肯定的になっちゃうぐらいこれは好きです。
いわゆる(?)シェアハウスものですね。僕が知ってる一番古いこれ系統はめぞん一刻ですが、ルーツはそこなのかな。
扱い方によっては絶対ドロドロの流れになるようなところ、ちょいちょい挟まるコメディとシンプルな絵柄ですごく読みやすく、かつきれいに仕上がってます。
これぞ田島列島。
直達の父親と榊さんの母親はかつて不倫関係にあり、直達の父は元の家庭に戻り榊さんの母はそのまま帰らなかった。
それが大きな心の傷となってしまった榊さんは、日々淡々いうか、無感動というか、怒っているのにどこにぶつけたらいいのかという生き方をずっとしていました。
そんな風に10年ぐらい生きてきた榊さんなので、母親を奪った男の息子である直達が、シェアハウスに住むことになっても淡々としてます。
「怒ってどうするの。怒ってもどうしょもないことばっかりじゃないの」
1巻42p
一貫して直達を子供扱いして、互いの親のことを明かさずに自分だけで背負おうとする
榊さん。
そこを崩していきたいのが直達です。1巻ラストの男気は最高でしたね。
傷を抱えた主人公2人と、彼らを取り巻く人々によって話が進んでいきます。
基本直達と榊さんの感情は微妙にから回ってすれ違い続けるんですが、話のテンポがよく、ダレる感じもなくしっかりとラストに向けて徐々にかみ合ってきます。
マンガというよりは映画みたいなところもあるかもしれない。実際映画化ですし。
いくつか、特に心に残ったところをつらつら書いていきます。
怒ってる榊さんと怒らない直達
榊さんは基本怒っている姿を見せないわけですが、怒りたいという感情を抑えているのが読み取れます。
怒った自分をいなかったように振舞っていますが、16歳で母親に激昂したまま10年間、恋愛はしないと決めて頑固に生きて、人生が止まってしまっているわけです。
教授はもちろんそれに気づいていて、いつまでも止まっている榊さんを心配しますが、多感な時期にあんな経験したら頑なにもなりますわな。
母親と再会したら我慢できず怒ってしまうわけですが、もう母親は新たな家庭も持っていて、それこそ怒ってもどうしょもないと改めて気づかされます。
それで、
みんなさァ…
シレッと幸せになってるじゃん
なんか…
バカバカしいわ]
57p
と、これまでの生き方を自分で否定してしまう。
だからこそ、怒っていた榊さんを忘れないと言った直達にぐっときます。
一方、直達は直達で、怒れない。
記憶はおぼろげながら、父親が一度いなくなったのは自分がわがままをいったからだという子供のころの思い込みから、清濁併せ吞むとか自制心旺盛とか言われる子になってしまった。
父親がいなくなったのは直達には関係ない不倫というのが事実なわけなのですが、幼いながらに傷ついたんでしょう。
同じ思いをしないために聞き分けのよい子としてふるまう姿はいじらしくも悲しいです。
榊さんへの淡い想いもあり、聞き分けのよい子から一歩踏み出して榊さんの抱えているものを半分持ちたいと言ったり、ずっと怒りたかったことを自覚して打ち明けたりと、前作『子供はわかってあげない』の善さんの言葉を借りるなら
コレよコレ。
田島列島の作品はよくこういうのが描かれますね。
複雑な家庭環境、抗えない現実に対して無力さを感じる子供の葛藤や成長。
誰しも何かを抱えているけど、ふさぎ込んでいても仕方ないから結局は面白おかしく乗り越えて生きていくしかないんだというメッセージを僕は勝手に受け取っています。
直達と榊さんも、客観的に見たらあまり健全とはいえない関係性かもしれません。
が、運命なのか宿命なのか、2人がそれでいいならいいんです。
そう思います。
相変わらずのコメディセンス
田島列島の日本語の使い方、独特のワードセンスが好きです。
各章のタイトルだったり、ポトラッチ丼とかうで玉子とか。
ちょいちょいよくわからんのもありますが笑
あとはそこかしこに散りばめられた小コマのネタたち。
毬林門楼
冷やし中華はじめてみた
居酒屋トリレンマ
海辺にあるバス停、椎斉戸(シーサイド)
などなど。
基本お店の名前とかで遊んできますね。
絶妙にふざけすぎない軽妙な遊び心も、どこかおかしな空気を作品に漂わせるいいアクセントですね。
映画も楽しみ
広瀬すずが榊さん役ですね。
主題歌はスピッツ。
ビッグネームですねえ。他の俳優とかはよく知りませんが。
ただ予告見た感じはどうかなーーーーー
漫画の空気感をどこまで表現できるのか、なんかその辺にある平凡な恋愛映画になってしまわないか少々気がかりです。
まあしかし、楽しみにしております。
見たら映画の感想も追記したいですね。
とりあえずスピッツは好きなのでその曲が収録されるアルバムは買っとこうかな。
以上、ウオズミでした。